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時計修理技術者コラムVol.8 ゼンマイと香箱~Cal.ETA2892-2/Cal.ETA6497編~

時計修理技術者コラムVol.8 ゼンマイと香箱~Cal.ETA2892-2/Cal.ETA6497編~

ゼンマイと香箱

機械式時計の動力といえば、みなさんご存知のゼンマイです。当店でもゼンマイ切れによる止まりでの相談を、日々多く受け付けております。交換頻度も非常に高い部品です。
今回は機械式時計に欠かせないゼンマイと、ゼンマイが収まる香箱についてご紹介させていただきます。

例としてフランクミュラーなどに使用されているETA2892-2(自動巻)と、パネライなどに使用されているETA6497(手巻き)を見ていきます。

2892-2ユニタス

Cal.ETA2892-2(自動巻)のゼンマイと香箱

2892ゼンマイ

Cal.ETA2892-2(自動巻)のゼンマイです。

2892香箱

Cal.ETA2892-2(自動巻)の香箱です。

2892香箱内壁

自動巻きの時計では、手巻きでのゼンマイ巻き上げ以外にも、腕に着用しているときの運動を利用し、ローターを回転させてゼンマイを巻き上げる方法も使用します。そのため、ゼンマイが完全に巻き上げられた状態で力を逃す“スリッピング”を発生させる形状になっています。

Cal.ETA6497(手巻)のゼンマイと香箱

6497ゼンマイ

Cal.ETA6497(手巻)のゼンマイです。

6497香箱

Cal.ETA6497(手巻)の香箱です。

6497香箱内壁

手巻きの時計の場合は、ゼンマイが完全に巻き上げられた状態になると、ゼンマイが香箱の内壁に引っかかる形状になっています。そのため、ゼンマイが完全に巻き上がると、巻き止まりがあります。(それ以上巻き上げることはできません。)

ゼンマイ(香箱)関連の故障と不具合

ゼンマイや香箱関連の故障と不具合は以下の通りです。
①手巻き時計で、ゼンマイが全巻の状態からさらに力が加わってゼンマイが切れてしまう。(止まり)
②自動巻き時計、手巻き時計共にゼンマイの金属疲労によってゼンマイが切れてしまう。(止まり)
③ゼンマイ切れではないが、継続的に使用することで、ゼンマイが劣化、変形してしまう。(パワーリザーブ不足、精度不良)
④自動巻き時計で、油切れ状態で長期間の使用により、香箱の内壁が摩耗し、スリッピング不良が起こる。(パワーリザーブ不足、止まり、精度不良)

6497ゼンマイ切れ

①手巻き時計の巻き止まりをしている状態でさらに巻き上げ方向へ力がかかった場合に発生します。香箱真に近い部分が外端の香箱内壁に引っかかり、リベットが打たれている部分が外れます。

2982ゼンマイ切れ

②自動巻き、手巻きの時計共に、時計の使用によりゼンマイの収縮と開放を何度も繰り返すことで、金属疲労を起こし発生します。香箱真に引っかかる部分が、ゼンマイを巻き上げる際に力がかかるため折れやすいです。(特にゼンマイの厚みがあるムーブメントで多いです)

形状不良ゼンマイ

③自動巻き、手巻きの時計共に、時計の使用によってゼンマイの経年劣化と弾力がなくなることで起こります。劣化し、変形したゼンマイはS時の形状が香箱真に近い部分は巻がきつくなり、外周に近くなるにつれ広がってしまいます。この場合、香箱に特に問題が無く、スリッピングも正常に起こっていますが、十分な動力を蓄えることができず時計の振り角減少(時計の動きが弱くなっている状態)や、パワーリザーブ不足などの不具合が発生します。

内壁削れ

④自動巻き時計の香箱の内側に本来塗布されているモリブデングリスが長期間の使用で乾いてしまい、油切れ状態で稼働している時計に多く見られます。スリッピングは金属同士が擦れながら発生するため、油切れ状態での使用は摩耗が進行してしまいます。内壁が削れてしまった場合は、ゼンマイ交換だけではスリッピング不良を解消することができず、香箱一式の交換が必要になるケースが多いです。

ゼンマイの交換時期

ゼンマイ香箱

機械式時計のゼンマイの寿命は使用頻度や使用環境によって大きく変化します。
ゼンマイ切れによって「使いたいときに使えなかった!」など、残念な思いをする前に定期的にお時計の状態を検診することをお勧めします。

見積・修理依頼


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